外来生物は「侵略者」か。―社会科学的視点から見る外来生物問題

外来生物と言えば、少し前にアリゲーターガーが話題になったりしました。他にもブラックバス、アライグマ、セアカゴケグモなど海外から日本へ持ち込まれた生物が中心です。それに加えて実は日本の在来種でも本来いなかった地域へ運び出されて定着した生物は国内外来種として問題になっています(オイカワなど)。

これらの外来生物は日本固有の生態系や人間への危害、農林水産業や遺伝的多様性への影響などの問題を引き起こすとして、主に自然科学が取り扱ってきました。しかし、この問題は自然科学だけで解決できるものではありません。外来生物問題は社会における人間の行動こそが引き起こすものだからです。そこには移送手段の拡大と地理的障壁の減少、法による規制、経済への影響など多様な社会的要因が存在しています。今回は外来生物問題をメディア・教育によるラベリングと責任転嫁という視点からとらえます。

昨年はテレビ東京の「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」やTBSの「世界の超S級危険生物」など日本にいる外来生物を取り上げるテレビ番組が多かったように感じます。このような番組では外来生物による被害から人間や生態系を守るために駆除をしたり警戒するように促されたりしています。また、書籍においても多くは特定の外来生物が在来種や日本の生態系に及ぼす危害・影響と対策やその必要性に焦点を当てています。さらに、理科の授業や川づくり運動などの教育においても同じことが言えます。

このように、メディア・教育はより自然科学的な視点で外来種問題を受け手に伝えています。その際によくみられるのが「外来種=侵略者」というラベリングです。より具体的に言えば、「危険」「悪影響を及ぼす」「脅威」といった表現を用いて日本の生態系や人間の生活を侵略する悪者というイメージ付けが行われています。なかにはその「侵略者」を排除する「正義としての人間」という構図が採用されているものもあります。実際、生態系や人間の活動に大きな影響を及ぼす外来生物はたくさんいます。しかし、彼らはほんとうに「侵略者」でしょうか。

広辞苑第六版によれば、「侵略」の辞書的な意味は「他国に侵入してその領土や財物を奪い取ること」です。例えばブラックバスなどの外来魚が定着する地域で在来種が減ったという事象を表面的に見れば、外来生物はたしかに「侵略的」に見えます。しかし、彼らは人間によって連れてこられたまったく知らない環境のなかで、その事実を知ることなくただ今まで通り生活しているだけです。そんな生物に対して「侵略者」というラベルを貼り、その生物そのものを問題の中心としているのです。これは人間が追うべき責任を、自分たちが持ち込み、拡大した外来生物そのものに転嫁しているといえます。

この責任転嫁の一番の問題は外来生物問題における人間の責任を盲目的にすることです。多くの外来生物は鑑賞や遊漁、食料資源や在来生物の駆除を目的として人間や企業によって日本に持ち込まれました(意図的導入)。また、ヒアリなどのように海外から来た船の貨物にまぎれて上陸して定着したものもいます(非意図的導入)。どちらにせよ外来生物の定着には、人間の欲求や都合を優先した生態系への影響を無視した行為、管理・規制の甘さ、そして何より人間以外の生物に対する生命倫理の低さが大きく関係しています。また、開発や都市化によってもともと日本では定着できないはずの外来生物が定着できる環境を提供してしまっていることも大きな要因です。それにもかかわらず「外来種=侵略者」としてあたかも問題の一番の原因が外来生物自身にあるかのような伝達・表現をすることは、これらの問題点に向き合う優先順位を下げ、外来生物そのものを駆除することばかりに注目を向けさせます。(ここであげた問題点については次回以降詳しく取り上げます。)つまり、人間の行為がこの問題を引き起こしているという点から目を背けさせることになります。

今回取り上げたメディア・教育による「外来種=侵略者」ラベリングと問題を引き起こす当事者である人間による外来生物への責任転嫁は、外来生物問題の根本的な解決だけでなく外来生物問題に対する一般の人々の関心も遠ざけます。これに基づいて生態系内の生物間の影響が大きく取り上げられれば、人間と外来生物の関係への注目が薄れるとともに、理系の専門的・学問的なイメージが付与されます。すると、ますます「一般人には関係ないもの」としてこの問題が扱われていきます。しかし、外来生物問題はペットや開発・都市化、さらに教育などの身近な問題も多く含んでいます。我々の何気ない行動が気付かないうちに関係している可能性もあります。だからこそ、外来生物は侵略者などではなく社会に生きる人間の様々な行為が結果的に生態系を侵害したという点を改めて認識し、より身近な社会問題として外来生物問題に取り組むことが必要です。自然科学だけでなく社会科学的な視点からこの問題を捉えなければこの問題が解決することは確実にないでしょう。

〇参考

五箇公一 『終わりなき侵略者との闘い 増え続ける外来生物』、小学館クリエイティブ、2017年。

西川潮・宮下直 『外来生物 ―生物多様性と人間社会への影響―』、裳華房、2011年

国立研究開発法人 国立環境研究所 「侵入生物データベース」

http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/basics/pathway.html (最終確認日 2018年05月30日)

環境省 「日本の外来種対策」

http://www.env.go.jp/nature/intro/1law/index.html (最終確認日 2018年05月30日)

テレビ東京 「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」

http://www.tv-tokyo.co.jp/ikenomizu/ (最終確認日 2018年05月30日)

TBS 「世界の超S級危険生物」

http://www.tbs.co.jp/sekainokikenseibutu/ (最終確認日 2018年05月30日)

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